SaaS(Software as a Service)は、企業の業務効率化に大きく貢献する一方で、セキュリティリスクも伴います。多くの企業がSaaSを導入する中で、安全性を確保しながら利用するためには、リスクマネジメントと継続的なセキュリティ対策が欠かせません。
本記事では、SaaSにおけるリスクマネジメントのステップやリスク評価の具体的な方法、そして継続的なセキュリティ対策の重要性とその支援ツールについて、順を追って解説します。

1. SaaSのリスクマネジメントのステップ
SaaSのリスクマネジメントは、以下のステップで実施します。
ステップ1:リスクの特定
まずは、SaaSの利用に伴って発生し得るリスクを網羅的に洗い出します。具体的には、情報漏えい、不正アクセス、マルウェア感染、サービス停止など、業務や顧客に影響を及ぼす可能性のある事象を想定します。この段階では、技術面だけでなく、人的ミスや運用体制の不備といった非技術的なリスクにも目を向けることが重要です。
ステップ2:リスクの評価
次に、特定したリスクの発生可能性と影響度を評価します。どのリスクがどれほどの頻度で発生し得るのか、発生した場合の業務や企業イメージへのダメージがどの程度かを見極めます。これにより、どのリスクから優先的に対策すべきかが明確になります。
ステップ3:リスク対策の計画
評価結果に基づいて、リスク軽減のための具体的な対策を検討・計画します。ここでは、対策内容の明確化に加えて、誰が・いつまでに・どのように取り組むのかを設定し、現実的かつ実行可能な計画を立てることが重要です。実行フェーズを見据えた設計が、後の対応をスムーズにします。
ステップ4:リスク対策の実行
立てた計画に従って、実際にセキュリティ対策を講じていきます。たとえば、多要素認証の導入、アクセス権限の最小化、データの暗号化、システムログの監視など、状況に応じた技術的・運用的な施策を講じます。実行段階では、進捗の可視化や状況の共有も重要になります。
ステップ5:リスクの監視と見直し
対策を講じた後も、状況は常に変化するため、継続的なモニタリングと定期的な見直しが欠かせません。新たな脅威やシステムの変更に応じて、既存の対策が有効かどうかを検証し、必要に応じて更新します。セキュリティは一度対応して終わりではなく、継続的に取り組む姿勢が求められます。

2. リスク評価の具体的な方法と評価基準
リスク評価は、SaaSのセキュリティリスクを定量的あるいは定性的に評価するプロセスです。この評価を通じて、リスクへの対応方針や優先順位を明確にし、限られたリソースで最大限の効果を得られるように対策を設計します。
リスク評価の具体的な方法
リスク評価には、主に定量的リスク評価と定性的リスク評価の2つの手法があります。それぞれの特徴と使い分けを理解することが、効果的な評価につながります。
定量的リスク評価
過去の統計データや実績に基づき、リスクの発生確率や影響度を数値として算出する評価方法です。具体的には、過去のインシデント件数、被害額、復旧までにかかった時間やコストなどの客観的なデータを活用します。
数値で裏付けられたリスク評価ができる点が強みですが、一方で、十分なデータが揃っていない場合や、未知のリスクには対応しにくいという限界もあります。そのため、定性的な評価と併用するのが一般的です。
定性的リスク評価
専門家の知識や実務経験に基づいて、リスクの発生可能性や影響度を数値ではなく言語的な表現で評価する方法です。主に「高・中・低」や「重大・中程度・軽微」などのスケールを使ってリスクの程度を判断します。
数値化が難しい要素や、実務的な肌感覚が必要なリスク評価に向いている一方で、評価者ごとにばらつきが出やすいという側面もあります。そのため、評価基準や評価プロセスをある程度標準化しておくことが、信頼性の確保につながります。
リスク評価の評価基準
リスク評価の基準は、組織のリスク許容度やSaaSの特性により異なります。評価基準を明確に設定することで、リスクに対する優先順位を決め、最適な対策を講じるための判断材料となります。一般的な評価基準としては、以下の3つが挙げられます。
リスクの発生可能性
リスクが実際に発生する確率を評価します。過去のインシデント発生件数や、既存の脆弱性があるかどうかを考慮し、将来的なリスクの確率を予測します。発生可能性が高いリスクには、早期の対策が求められます。
リスクの影響度
リスクが実際に発生した場合、どれくらいの損失や影響を及ぼすかを評価します。例えば、情報漏えいによる顧客の信頼損失や、サービスの停止による業務への影響を考慮します。影響度が大きいリスクに対しては、優先的に対応が必要です。
リスクの緊急度
リスクに対してどれだけ早急に対応が必要かを評価します。脆弱性の公開情報や攻撃者の動向、または特定の脅威が実際に進行中かどうかを考慮し、緊急度の高いリスクを特定します。
これらの評価基準を総合的に判断することで、リスクの重要度を適切に見極め、優先的に対策を講じるべきリスクを特定することができます。たとえば、発生可能性が高く、影響度も大きい場合は、即座に対応を行うべきです。
リスク評価の結果は、リスクマトリクスといった形式で可視化されることが一般的です。リスクマトリクスは、リスクの発生可能性と影響度を軸に、各リスクを視覚的にマッピングした表で、リスクの優先順位を明確にし、効率的な対策を立案するための強力なツールです。
3. 継続的なセキュリティ対策の必要性
SaaS環境では、セキュリティリスクは常に進化しています。そのため、継続的に対策を見直し、最新の脅威に対応することが欠かせません。ここでは、継続的なセキュリティ対策の重要性と、その具体的な方法について解説します。
最新の脅威への対応
常に最新の脅威情報を収集し、適切な対策を講じます。新たな脆弱性や攻撃手法に対応するため、セキュリティアップデートを適用したり、セキュリティパッチを適用したりすることが重要です。
従業員へのセキュリティ教育
従業員にセキュリティ意識を高めるための教育を定期的に実施します。フィッシング詐欺やマルウェア感染などのリスクを理解し、適切な行動を取るように教育します。
インシデント対応体制の構築
万が一セキュリティインシデントが発生した場合に備え、迅速に対応できる体制を構築します。インシデント対応の手順や担当者を明確にし、定期的に訓練を実施します。

4. セキュリティ対策の自動化や効率化に役立つツールやサービス
SaaSのセキュリティ対策を効率的に進めるためには、自動化や監視を活用することが非常に重要です。手動での管理には限界があるため、適切なツールやサービスを導入し、セキュリティの維持管理を自動化・効率化することが求められます。ここでは、セキュリティ対策の自動化を支援する主要なツールやサービスについて解説します。
セキュリティ情報・イベント管理(SIEM)
SIEM(Security Information and Event Management)は、企業のネットワークやシステム内で発生するログやイベントをリアルタイムで収集、分析するツールです。これにより、セキュリティインシデントや異常な動きを迅速に検出し、早期対応を可能にします。SIEMは、膨大なデータを解析し、重要な情報をピックアップすることで、セキュリティチームの負担を軽減し、迅速な対処を支援します。
脆弱性管理ツール
脆弱性管理ツールは、システム内の脆弱性を自動的にスキャンし、リスクのある箇所を特定・修正するための支援ツールです。これにより、セキュリティホールを早期に発見し、修正が遅れることを防ぐことができます。定期的に脆弱性スキャンを実施することで、システムのセキュリティレベルを常に高く保ち、攻撃者による不正アクセスを未然に防ぐことが可能です。
クラウドセキュリティ管理ツール(CASB)
CASB(Cloud Access Security Broker)は、SaaSを含むクラウドサービスの利用状況を可視化し、セキュリティポリシーの適用やリスクの監視を行うツールです。これにより、企業のクラウド環境全体を一元的に管理し、ポリシー違反を検出したり、ユーザーアクセスを監視したりすることができます。CASBは、企業がクラウド環境を安全に運用するために必要不可欠なツールです。
5. SaaSのセキュリティ対策に関する最新の法規制やガイドライン
SaaSのセキュリティ対策を強化するためには、最新の法規制やガイドラインに関する理解と遵守が欠かせません。これらの規制は、データ保護や情報セキュリティの標準を設定し、企業が適切なセキュリティ対策を実施するための指針を提供します。規制やガイドラインに従うことで、法律に基づいた適正な運用ができるだけでなく、企業の信頼性向上にもつながります。
個人情報保護法
日本における個人情報保護法は、企業が取り扱う個人情報の管理方法に関する基本的なルールを定めています。この法律では、個人情報を適切に取り扱うことを義務付けており、データの収集、利用、保管、廃棄に関する具体的な指針が示されています。SaaSを利用する企業も、個人情報を安全に管理するために、この法規制を遵守することが求められます。
GDPR(General Data Protection Regulation)
GDPR(一般データ保護規則)は、欧州連合(EU)で施行されているデータ保護に関する規則で、EU内で事業を行う企業やEU市民の個人データを取り扱う企業に適用されます。この規則では、個人データを保護するための厳格なルールを定め、企業に対して透明性、データの最小化、権利の行使などを求めています。SaaS企業は、データの取り扱いに関するポリシーを明確にし、ユーザーの同意を得ることが義務付けられています。
ISO 27001
ISO 27001は、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際標準であり、企業が情報セキュリティを体系的に管理・改善するためのフレームワークを提供します。この規格に従うことで、SaaSサービス提供者は、リスク評価やセキュリティ対策の実施、継続的な改善のプロセスを確立できます。また、ISO 27001認証を取得することで、企業のセキュリティレベルが国際的に認められ、顧客からの信頼も高まります。
まとめ
SaaS(Software as a Service)の利用が増加する中で、リスクマネジメントと継続的なセキュリティ対策は、企業の情報を守り、安全なクラウド環境を維持するために欠かせない要素となっています。セキュリティリスクへの適切な対応や、脅威が常に変化する中での柔軟な対策が重要です。
本記事では、SaaSのリスク管理の基本的なステップから、セキュリティ対策を効率化するためのツールや法規制まで、包括的に解説しました。
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