ここ数年で、ChatGPTなどの生成AIツールは企業業務のさまざまな場面に広がっています。資料作成や顧客対応などの効率化が進み、社内での活用の幅も広がっています。しかし、同時にAIセキュリティのリスクも増えています。特に、情報漏えいや内部不正といったリスクは、多くの企業で十分に認識されていません。
2023年のアクセンチュアの調査では、世界の企業の90%以上、日本国内では92%がAIセキュリティ対策を後回しにしていると報告されています。このデータは、AI導入のスピードに対して、リスク管理や社内教育、運用体制の整備が追いついていない現状を示しています。サイバー攻撃は巧妙化しています。DX推進によってシステムやデータの利用範囲が広がることで、被害の規模も大きくなります。こうした状況から、社内教育の強化と運用体制の整備は、企業にとって急務です。
生成AIがもたらすリスクの具体構造
生成AIは自然な文章や画像を作る力があります。しかし、この特性を悪用したサイバー攻撃のリスクも増えています。ここでは代表的なリスクを整理します。
- プロンプトインジェクション
AIに入力する指示文(プロンプト)を攻撃者が改ざんする手口です。例えば、「社内データを要約して」と指示したAIが、仕込まれた命令に従い機密情報を外部に送信する場合があります。AIが人間の指示に忠実に従う特性を悪用しています。 - ディープフェイクを用いた詐欺
AIで生成した音声や映像を使い、経営者や取引先を装った指示が送られます。海外では、社長の声を偽装した音声で送金指示が出され、数千万円がだまし取られた事例があります。精度が高く、従業員が騙されやすいのが特徴です。 - データ汚染(データポイズニング)
AIは学習データに基づき動作します。攻撃者が学習用データに悪意ある情報を紛れ込ませると、誤った判断を行います。不正アクセスを正当な操作と誤認するなど、防御システムの信頼性を揺るがします。 - 誤情報の拡散
AIは精緻な文章を作成できますが、内容が必ずしも正確とは限りません。生成された誤情報が社員や顧客に広がると、企業の信頼低下につながります。特に金融や医療の分野では致命的です。 - 機密情報の外部流出
利用者が無意識に入力した社内情報がAIサービス提供者のサーバーに保存される場合があります。議事録や新製品情報などが学習データに使用されると、機密情報が外部に漏れるリスクがあります。
こうしたリスクは、まだ起きていない未来の話ではありません。攻撃者はすでに生成AIを活用してフィッシングメールの自動生成やSNSでの偽情報拡散を行っています。攻撃の自動化と精度向上が同時に進んでいます。
最新データで見る現状認識と危機感
生成AIを悪用した攻撃は、すでに現実に起きています。ガートナーの調査によると、2025年までにAI由来の攻撃が全体の30%以上を占める見込みです。また、米国の調査では企業の40%が、AIによるセキュリティインシデントをすでに経験または予測しています。
国内でもフィッシングメールの精度が高まり、従来のように不自然な文法や言い回しで判別できなくなっています。ある統計では、70%の企業が「従業員が生成AI由来の偽メールを開封した経験がある」と回答しています。被害は水面下で着実に拡大しています。
こうした状況を踏まえると、企業はAI活用の効率性だけでなく、サイバー攻撃の精度向上や内部不正リスク、情報漏えいに対応する必要があります。
社内教育や運用体制の整備は急務です。
生成AI時代に必要な4段階セキュリティ戦略
生成AIの普及により、従来のウイルス対策ソフトだけでは不十分です。企業が取るべきセキュリティ戦略を、4つの段階に整理します。
- Assessment/現状把握
どの部門がAIを利用しているかを洗い出します。入力されているデータも確認します。 - Policy/方針策定
顧客情報はAIに入力禁止など、利用ルールを明確化します。社内ガイドラインを整備します。 - Implementation/技術的対策
ID管理、アクセス制御、利用ログの取得、振る舞い検知システムの導入などを行います。 - Education/社員教育
社員に便利さの裏にある危険を理解させます。実際に体験する研修を行い、攻撃に備えます。
特に教育は、攻撃の巧妙化が進む今、最も効果的な防御策です。短期間で社内リスクを下げることができます。
フレームワークによる戦略の裏付け
生成AI対策は思いつきではなく、国際的な枠組みにも裏付けがあります。
米国NISTが2023年に発表した「AIリスクマネジメントフレームワーク(AI RMF)」では、
・Governance(ガバナンス)
・Management(マネジメント)
・Technology(技術)
・Education(教育)
の4領域をバランスよく強化することが推奨されています。
このフレームワークは、単にIT部門だけで対応するのではなく、全社で取り組むべき課題であることを示しています。AIの利用が広がるほど、業務全体への影響も大きくなるためです。
社内での現状把握、方針策定、技術的対策、社員教育を統合的に実施することが、リスク低減につながります。
まとめと即実践可能なアクション
生成AIによる脅威は、従来の攻撃よりもスピードと精度が格段に上がっています。企業は先手を打つ仕組み作りが求められています。企業がすぐに始められるアクションは以下の3つです。
- 社内で利用されているAIツールの棚卸し
- 利用ガイドラインの作成と共有
- フィッシング模擬訓練などのシミュレーション実施
これらだけでもリスク低減につながります。社内教育と運用体制の整備は、被害を最小化するために欠かせません。
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