毎年、2月1日から3月18日はサイバーセキュリティ月間です。

デジタル化が加速する現代において、サイバー攻撃は巧妙化の一途を辿り、私たちの生活やビジネスを脅かす存在となっています。

サイバーセキュリティ月間は、国民全体のセキュリティ意識向上と対策強化を目的とした取り組みです。この期間中、政府機関や企業、教育機関などが連携し、様々な啓発活動が行われます。

サイバーセキュリティ月間を機に、私たち一人ひとりがセキュリティ意識を高め、安全なデジタルライフを送るための知識と対策を身につけましょう。

はじめに:深刻化するフィッシング攻撃の脅威

デジタル技術が私たちの生活に深く浸透する現代社会において、サイバーセキュリティの脅威は日々進化を続けています。特に注目すべきは、フィッシング攻撃の急速な進化です。従来の単純な手口から、AIやQRコードなどの最新技術を駆使した高度な攻撃へと変貌を遂げており、個人や企業を問わず、その被害は拡大の一途をたどっています。

2024年に入ってからも、日本国内では多数のフィッシング被害が報告されています。警察庁の発表によると、フィッシングによる被害報告は前年比で約1.5倍に増加し、特に金融機関や大手ECサイトを装った攻撃が急増しているとのことです。さらに懸念すべきは、攻撃手法の巧妙化により、ITに詳しい利用者でさえも被害に遭うケースが増えていることです。

Fishing_1

AIを活用した精巧な偽装メール

最新のフィッシング攻撃では、AI技術を駆使した精巧な文章生成が行われています。従来見られた機械翻訳特有の不自然な日本語表現は影を潜め、ネイティブが書いたかのような自然な文章での攻撃が主流となってきています。

ある地方銀行での被害事例は、この変化を如実に示しています。インターネットバンキング利用者を標的とした攻撃では、銀行の正式名称や口座種別が正確に記載され、金融業界特有の専門用語が適切に使用されていました。さらに、地域の特性を考慮した方言や表現が採用され、該当銀行の実際のメールフォーマットが完璧に模倣されていたのです。このメールは、AIによって過去の正規メールを学習し、文体や形式を完全に再現していたと考えられています。

現代のフィッシング攻撃は、標的となる個人や組織について徹底的な調査を行い、最も効果的なアプローチを選択します。攻撃者は、企業のウェブサイトやプレスリリース、SNSアカウント、業界ニュース、さらには採用情報や社員のブログまで、あらゆる公開情報を収集・分析します。

この精密な標的型攻撃の実態は、ある製造業での事例に顕著に表れています。攻撃者は企業の決裁システムと発注フローを徹底的に調査し、実在する取引先企業の情報を収集。さらに、決裁権限を持つ管理職のスケジュールまで把握した上で、最も多忙な時期を狙って攻撃を実行しました。資材部門管理職に送られた緊急の支払い要請メールには、過去の取引実績や正確な発注番号が記載され、普段のコミュニケーションで使用される業界用語や社内独自の表現まで完璧に再現されていたのです。

QRコードを使用した新たな手口

QRコードを悪用した攻撃が急増している背景には、コロナ禍以降のキャッシュレス決済の普及と、スマートフォンでのQRコード読み取りが日常的な行為となっている社会の変化があります。この日常的な行為を狙った攻撃は、より巧妙かつ深刻なものとなっています。

2024年初頭、首都圏で発生した大規模な被害事例は、この新しい脅威を象徴するものでした。有名なラーメンチェーン店で発生したこの事件では、店頭の正規の決済用QRコードが巧妙に偽物に置き換えられていました。決済しようとした客は偽装されたサイトへ誘導され、クレジットカード情報を詐取されるという被害に遭いました。被害は首都圏の10店舗で同時に発生し、約200名の客が個人情報を詐取されました。特に注目すべきは、偽のQRコードが専用のシールで作られており、見た目では本物と区別がつかないほど精巧だった点です。

また、大手配送業者を装った攻撃も深刻な被害を出しています。不在通知を装ったSMSにQRコードを添付し、再配達予約のための情報入力を求めるという手口です。さらに悪質なのは、不在確認のための防犯カメラ映像確認という名目で、スマートフォンのカメラへのアクセス権限を要求する点です。一度この権限を取得されると、スマートフォン内の個人情報が窃取されてしまう危険性があります。

最新のQRコード攻撃の特徴として、特に警戒すべきは動的なリダイレクト機能の悪用です。一見すると正規のURLに見えるQRコードですが、読み取り後に複数回のリダイレクトを経て最終的に偽サイトへ誘導される仕組みが採用されています。このため、通常のURLの安全性チェックをすり抜けてしまうことが多いのです。

さらに、攻撃者は位置情報技術も巧みに活用しています。QRコード読み取り時の位置情報を取得し、その場所に応じた偽サイト(例えば、特定の店舗の決済ページそっくりのサイト)を表示することで、より説得力のある詐欺を実行しています。このような場所に応じたカスタマイズにより、被害者の警戒心を効果的に解いているのです。

ソーシャルエンジニアリングの高度化

現代のソーシャルエンジニアリングは、人間の心理を巧みに操る従来の手法に、最新のデジタル技術を組み合わせることで、より強力な攻撃手段として進化を遂げています。

2024年に発生した大手商社での事例は、この進化を如実に示しています。攻撃者は長期的な視点で、極めて計画的なアプローチを行いました。まず取引先企業の新入社員になりすまし、業界動向について何気ない問い合わせメールを送信することから始めました。その後、数週間かけて通常の業務のやり取りを装った信頼関係を築き、次第に経理担当者になりすまして支払い関連の問い合わせを開始。最終的には、取引先の口座情報の変更申請にまで至ったのです。

この事例の特筆すべき点は、攻撃者が見せた高度な専門性です。使用された日本語は完璧で、業界用語も適切に使用されており、AIによる文章生成と人間による微調整を組み合わせていたと考えられています。通常の業務コミュニケーションとの違いを見分けることは、熟練の担当者でさえ困難でした。

SNSを活用した新たな手口も出現しています。ある技術者の経験は、その代表的な例です。LinkedInで同業種の技術者を装ったアカウントから接続リクエストを受信した後、共通の技術的関心事についての深い議論が展開されました。攻撃者(もしくはAI)は高度な技術的知識を示しながら信頼関係を構築し、「新しいプロジェクトの相談がある」という名目で機密情報を引き出そうと試みたのです。

最新のソーシャルエンジニアリング攻撃では、心理的圧力も巧妙に活用されています。例えば、「このセキュリティ警告は、あと30分で対応が必要です」といった緊急性を強調するメッセージや、「すでに○○様、△△様にご対応いただいております」と実在する関係者の名前を出すことで同調圧力を生み出す手法が使われています。さらに、「本件は○○役員より至急対応の指示が出ております」といった権威を利用した説得も行われています。

Fishing_2

効果的な対策アプローチ

現代のフィッシング攻撃に対抗するためには、従来の対策に加えて、最新技術を活用した包括的なアプローチが必要となっています。特に、攻撃者側がAIを活用するようになった今、防御側もAIを積極的に取り入れた対策を講じることが不可欠です。

ある金融機関での導入事例は、最新技術を活用した防御の効果を明確に示しています。この金融機関は、機械学習を活用した新しいメールフィルタリングシステムを導入しました。このシステムは、メールの文脈を理解し、不自然な要求や通常と異なるパターンを検出する能力を持ち、送信元のなりすましを高精度で検知します。さらに、受信者の行動パターンを学習し、異常を検知する機能も備えています。システムは常に進化し、リアルタイムで新しい攻撃パターンを学習して防御を更新していきます。導入後、フィッシングメールの検知率は従来の88%から99%へと大幅に向上し、誤検知率も著しく減少したとのことです。

デバイスレベルでの防御強化も重要です。ある製造業企業では、全ての端末にAI搭載の次世代アンチウイルスソフトを導入し、QRコード読み取り時の自動セキュリティチェック機能を実装しました。さらに、ふるまい検知による不正アクセスの防止ゼロデイ攻撃への対応強化も図っています。

しかし、技術的な対策だけでは十分ではありません。むしろ、人的な対策がより重要性を増しています。ある IT企業で実施されている先進的な教育プログラムは、その好例といえるでしょう。この企業では、実際のフィッシングメールを基にした演習QRコード詐欺の実例を使用した体験学習ソーシャルエンジニアリングの実演と対策講習など、実践的なトレーニングを提供しています。

組織的な取り組みの重要性

現代のフィッシング対策では、組織全体で取り組む体制づくりが不可欠です。ある大手小売企業の成功事例は、包括的なアプローチの重要性を示しています。この企業では、CISO(最高情報セキュリティ責任者)の設置を始め、部門横断的なセキュリティ委員会の定期開催インシデント発生時の対応チーム(CSIRT)の常設、そして現場レベルでのセキュリティリーダーの配置など、重層的な体制を構築しました。

特筆すべきは、この企業がセキュリティ対策を単なる「コスト」ではなく「投資」として位置づけ、経営層が積極的に関与している点です。この姿勢により、必要な予算確保と迅速な意思決定が可能となっています。

具体的な取り組みとして、四半期ごとのセキュリティ診断や外部専門家による脆弱性診断を実施し、従業員のセキュリティ意識調査も定期的に行っています。さらに、年2回の大規模訓練と月次での小規模演習を実施し、実際のインシデント事例に基づいたシナリオを用いることで、より実践的な対応力を養っています。

Seminar

今後の展望と予測される脅威

セキュリティ専門家たちは、今後新たな脅威の出現を予測しています。特に警戒すべきは、ディープフェイク技術を活用した攻撃です。オンライン会議での上司になりすました指示や、取引先担当者を装ったビデオメッセージ、さらにはリアルタイムでの音声なりすましなど、より高度な偽装が可能になると考えられています。

一方で、防御技術も着実に進化を続けています。ブロックチェーン技術を活用したデジタル署名による真正性の確保や、改ざん検知の自動化取引記録の完全性保証など、新しい技術による対策も実用化されつつあります。また、ユーザーの通常の行動パターンを学習し、異常な操作を即時検知する行動分析技術や、リスクに応じて認証強度を動的に調整するシステムなども開発されています。

まとめ:効果的な対策の実現に向けて

フィッシング攻撃への対策は、一朝一夕には実現できません。しかし、基本的な対策の確実な実施最新技術の適切な活用、そして組織全体でのセキュリティ文化の醸成を通じて、効果的な防御体制を構築することは可能です。

重要なのは、定期的なセキュリティ教育を通じて基本的な防御策を徹底し、インシデント対応手順を整備することです。さらに、AI技術の積極的な導入自動化による効率的な監視新しい認証技術の採用など、技術面での進化にも対応していく必要があります。

同時に、セキュリティ意識の定着オープンなコミュニケーション継続的な改善の推進など、組織文化としてのセキュリティ意識の醸成も欠かせません。

フィッシング攻撃は日々進化を続けており、完璧な対策は存在しないかもしれません。しかし、組織全体で危機意識を共有し、適切な対策を講じることで、リスクを最小限に抑えることは可能です。

本記事で紹介した対策や事例が、皆様の組織のセキュリティ強化の一助となれば幸いです。最後に強調しておきたいのは、セキュリティ対策は終わりのない取り組みだということです。常に最新の脅威動向をキャッチアップし、対策を更新し続けることが、デジタル時代を生き抜くための重要な鍵となるでしょう。

サイバーセキュリティ月間を機に社内のセキュリティ対策を見直したいけど、どこから手をつければいいのか…という方はぜひ、Synplanningにご相談ください。

事業規模や内容、社内の環境にあったご提案をいたします。