企業がセキュリティに関する規約を策定する際、しばしば直面する課題は、「不要な規定の策定」と「必要な規定の欠落」です。
これらの問題は、企業のセキュリティ管理において重大なリスクを生じさせ、リソースの無駄遣いや組織のセキュリティ体制の弱体化を招く可能性があります。
本記事では、その原因と解決策について詳しく解説します。
不要な規定を作成する問題の原因
セキュリティリスクや被害に関する知見の欠如
セキュリティリスクがどの程度の頻度で発生し、どのような影響を及ぼすかについての知識が不足していると、リスクに対する過剰な規定を設けてしまうことがあります。
例えば、極めて発生頻度の低いリスクに対して、高コストな対策を義務付ける規定を設けてしまうケースなどが該当します。
これにより、低リスクの事象に対しても過剰な対策を講じ、リソースの無駄遣いにつながります。
また、リスクの定量的な評価(例:リスクアセスメント)を行わずに、定性的な判断のみで規定を作成することも、過剰な規定を生む要因となります。
セキュリティ対策の多様性と理解不足
セキュリティ対策の種類は、技術的な対策(ファイアウォール、侵入検知システム等)、運用的な対策(アクセス制御、インシデントレスポンス等)、人的な対策(従業員教育、セキュリティ意識向上等)など、多岐にわたります。
それぞれの有効性を理解していないと、必要以上の対策を規定に盛り込んでしまいがちです。
また、優先順位を正しく設定しないことで、重要度の低い対策にまでリソースを割いてしまう可能性があります。
例えば、最新の脅威動向を考慮せずに、古い技術に基づいた対策を過剰に重視するなどが該当します。
リサーチ不足
セキュリティに関する最新の知識や業界標準(例えば、ISO 27001、NISTサイバーセキュリティフレームワーク等)を把握していないと、他社の対策を不適切に模倣し、不要な規定を作成することがあります。
さらに、自社の業務プロセスや特有のリスク(例えば、特定の業界規制、ビジネスモデル特有のリスク等)を理解していない場合、過剰または欠落する規定を生じさせる原因になります。
例えば、クラウドサービスを利用していない企業が、クラウドセキュリティに関する詳細な規定を設けても意味がありません。
経営方針と不整合
セキュリティ規約が経営戦略と一致していないと、企業の目標に対して不必要な規定が作成され、セキュリティ対策が逆に企業成長の障害となる可能性があります。
例えば、アジャイル開発を推進している企業で、厳格すぎる変更管理プロセスを規定してしまうと、開発スピードが大幅に低下する可能性があります。トップダウンの指導不足もこれに寄与します。
必要な規定が欠落する問題の原因
経営戦略と不整合
企業が直面する特有のリスクやニーズに基づいた規定が作成されないことで、重要な資産やプロセスを保護するために必要な規定が欠落する可能性があります。
例えば、個人情報を多く扱う企業で、データ漏洩時の対応に関する規定が欠落している場合、実際に漏洩が発生した際に適切な対応ができず、企業イメージの失墜や法的責任を問われる可能性があります。
また、経営方針がセキュリティ規約に反映されていない場合、どのリスクや対策が重要かの基準が不明瞭になります。
経営層からの指導不足
トップダウンの指導が欠如していると、組織全体の方向性が不明確になり、セキュリティ規約の策定において必要な基準や規定が不明瞭になります。
これにより、セキュリティの重要性が組織内で十分に共有されないことがあります。
例えば、経営層がセキュリティ投資に消極的な場合、必要なセキュリティ対策を実施するための予算や人員が確保されず、結果として必要な規定が守られない可能性があります。
リスク評価とリソース配分の不適切さ
経営方針に基づいたリスク評価が不十分であると、特定のリスクに対する規定が作成されず、結果として重要な規定が欠落する原因になります。
例えば、サプライチェーンリスクを十分に評価せずに、自社のみのセキュリティ対策に偏った規定を作成した場合、サプライヤーからの攻撃によって情報漏洩が発生する可能性があります。
また、必要な人材や時間のリソース配分が不足していると、セキュリティ規約の策定が圧迫されます。
解決策
経営層の積極的な関与
経営層がセキュリティの重要性を認識し、明確なビジョンと方針を示すことで、規約策定の方向性を明確にします。
経営層がセキュリティ委員会を設置し、定期的に進捗状況を報告させるなどの具体的な行動が求められます。
リスク評価の強化
経営方針に基づいたリスク評価(例えば、リスクアセスメント、脆弱性診断等)を行い、企業にとって重要なリスクを特定し、それに対応する規定を優先的に作成します。
リスク評価の結果は、規定の内容だけでなく、リソース配分の優先順位付けにも活用します。
組織全体の連携
経営方針とセキュリティ規約を組織全体で共有し、各部門(法務、人事、情報システム等)が協力して必要な規定を洗い出すプロセスを確立します。
ワークショップやアンケートなどを活用し、現場の意見を吸い上げることも重要です。
定期的な見直し
経営方針やビジネス環境の変化(例えば、新しい技術の導入、法規制の変更等)に応じて、セキュリティ規約を定期的に見直し、必要な規定が欠落していないかを確認します。
少なくとも年に一度は見直しを行うことが推奨されます。
まとめ
セキュリティに関する規約作成は、企業の安全を守る要となる重要な作業です。
不必要な規定を盛り込みリソースを浪費することや、必要な規定を欠落させて重要なリスクを見逃すことは、どちらも避けなければなりません。
それには、セキュリティリスクや対策への深い理解、経営方針との整合性、組織全体の連携と定期的な見直しが欠かせません。
これらをしっかりと実行することで、変化するビジネス環境に対応した、効果的で継続的なセキュリティ体制を構築することが可能になります。
従業員から経営層まで一丸となって取り組むことで、組織全体でリスクを最小化し、安全な運営を支える基盤を築きましょう。
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