ISMS認証の取得はゴールではなく、むしろ本格的な情報セキュリティマネジメントの始まりです。多くの組織が認証取得後の運用で悩みを抱えていますが、本質的な課題は「継続的な改善をいかに実現するか」という点にあります。本編では、認証取得後の効果的な運用方法と、継続的な改善のポイントについて解説します。

1. PDCAサイクルの実践
PDCAサイクルは、単なる概念的なフレームワークではありません。
組織の情報セキュリティを継続的に改善していくための実践的なツールとして活用する必要があります。
1-1. Plan(計画)の具体化
効果的なISMS運用の基盤となるのが、綿密な年間計画です。
ただし、ここでよくある失敗が「完璧な計画を立てようとして実行が遅れる」というケースです。
重要なのは、実行可能な現実的な計画を立てることです。
年間計画には、定期的な活動計画、内部監査スケジュール、マネジメントレビューの実施時期、教育研修計画、リスクアセスメントの実施時期を含める必要があります。
特に注意すべきは、これらの活動の相互関係です。
例えば、内部監査の結果をマネジメントレビューにインプットするためには、適切な実施時期の設定が必要です。また、年度末に全ての活動が集中しないよう、バランスの取れたスケジューリングを心がけましょう。
1-2. Do(実行)のポイント
計画を実行に移す段階で最も重要なのは、「継続性」です。
多くの組織で見られる失敗は、最初は意気込んで取り組むものの、日常業務に追われて次第にISMS関連の活動が後回しになってしまうことです。
この問題を防ぐためには、通常業務の中にISMS活動を組み込むことが効果的です。
例えば、週次の部門ミーティングの中にセキュリティ項目を常設議題として入れる、月次報告の中にセキュリティ指標の報告を含めるなどの工夫が有効です。
1-3. Check(評価)の実施
評価なくして改善なし。これはISMSに限らず、あらゆるマネジメントシステムに共通する原則です。
しかし、評価を形式的なチェックで終わらせてしまっては、本当の改善には結びつきません。
内部監査では、単なる「適合性」のチェックだけでなく、「有効性」の評価に重点を置くことが重要です。
例えば、セキュリティ教育を実施したという記録があることを確認するだけでなく、その教育が従業員の行動変容につながっているかどうかを評価することが必要です。
2. 継続的改善の推進
継続的改善とは、小さな改善を着実に積み重ねていくことです。
ときには大きな変革も必要ですが、日々の小さな改善の積み重ねこそが、組織の情報セキュリティレベルを確実に向上させていく原動力となります。
2-1. Act(改善)の具体化
改善活動においてよく見られる課題は、「問題の指摘はできるが、効果的な改善につながらない」というケースです。
これを防ぐためには、改善のプロセスを体系的に進めることが重要です。特に重要なのが「根本原因分析」です。
例えば、「従業員がセキュリティルールを守らない」という問題に対して、単に「教育を強化する」という対策を立てるのではなく、なぜルールを守れないのかという根本的な原因を探る必要があります。
実際には、ルールが現場の業務実態に合っていない、手順が複雑すぎる、といったケースが多々あります。
効果的な改善活動のステップとしては、課題の明確化、根本原因の分析、対策の立案と優先順位付け、実施計画の作成、効果の測定と検証が挙げられます。
また、ある部門で発見された課題は、他の部門でも同様の問題が潜んでいる可能性があります。
効果的な改善事例は、積極的に水平展開を図ることが重要です。
2-2. マネジメントレビューの活性化
多くの組織で、マネジメントレビューが形式的な報告会で終わってしまうという課題を抱えています。
しかし、本来マネジメントレビューは、経営層が情報セキュリティの課題を理解し、必要な経営判断を行う重要な機会です。
効果的なマネジメントレビューを実現するためのポイントは、「経営判断に必要な情報を適切に提供すること」です。
例えば、セキュリティ投資の費用対効果、リスク対策の進捗状況と残存リスク、セキュリティインシデントの傾向分析、業界標準や競合他社との比較、将来的なリスクと必要な対策といった情報を、経営層に理解しやすい形で提示することが重要です。

3. 定期審査への対応
定期審査は、単なる認証維持のための手続きではありません。組織の情報セキュリティマネジメントシステムの有効性を、第三者の視点で評価してもらう貴重な機会として捉えるべきです。
3-1. 定期審査の準備
審査準備で陥りやすい失敗は、審査直前の慌ただしい対応です。
これは、普段の運用が適切に行われていないことの表れであり、審査員にもその実態は容易に見抜かれてしまいます。
重要なのは、日常的なPDCAサイクルの中で必要な証跡を適切に残していくことです。
具体的には、月次での記録類のレビューと更新、四半期ごとの内部監査による確認、発見された課題の改善計画と実施状況の記録、定期的な従業員教育の実施記録などを着実に実施することで、審査対応に特別な準備は必要なくなります。
3-2. よくある指摘事項と対策
定期審査では、いくつかの共通した指摘事項が見られます。これらを事前に理解し、適切に対応することで、より効果的なISMSの運用が可能になります。特に注意すべき指摘事項として、リスクアセスメントの形骸化と有効性評価の不足が挙げられます。
リスクアセスメントの形骸化とは、多くの組織で「前回と同じリスク評価を繰り返している」という指摘を受けることです。しかし、ビジネス環境やIT技術は日々変化しており、それに伴うリスクも変動します。そのため、四半期ごとの環境変化の確認、新たな脅威情報の収集と評価、部門ごとの業務変更の把握、リスク基準の定期的な見直しを実施することで、実態に即したリスクアセスメントが可能になります。
また、有効性評価の不足とは、「対策は実施したが、その効果を評価していない」という指摘です。セキュリティ対策は、実施すること自体が目的ではなく、リスクを適切にコントロールすることが目的です。
そのため、対策ごとの評価指標の設定、定期的な効果測定の実施、費用対効果の分析、予期せぬ副作用の確認を行う必要があります。

まとめ
ISMS認証取得後の運用で最も重要なのは、「持続可能性」です。
完璧を目指すあまり、現場に過度な負担をかけてしまっては、かえって形骸化を招きかねません。効果的な運用のためのキーポイントは、
・現場の実態に即した運用
情報セキュリティの向上と業務効率の両立を常に意識し、セキュリティ対策が業務の著しい阻害要因となっている場合は、代替手段の検討も必要
・段階的な改善
全ての課題を一度に解決しようとするのではなく、優先順位をつけて段階的に改善を進めていく。小さな成功体験の積み重ねが、組織全体のモチベーション維持につながる
・コミュニケーションの重視
セキュリティ部門と現場、経営層と実務者、組織と委託先など、様々なステークホルダー間の適切なコミュニケーションが、効果的なISMS運用の鍵となる
の3点です。
最後に
情報セキュリティを取り巻く環境は日々変化しています。
テレワークの普及、クラウドサービスの活用、IoTの進展など、新たな課題は常に発生します。
このような環境下では、ISMSもまた進化し続ける必要があります。
形式的な運用にとどまることなく、組織の持続的な発展を支える基盤として、ISMSを活用していくことが求められています。
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